近田先生
【報告】
小1 国語「かき、かぎ」
小2 国語「へんしんしてお話を作ろう」、「はんたいのいみの言葉」、
「大事なことを落とさないで聞く(聞く・話す)」
小3 国語「すがたをかえる大豆」、「人物の気持ちを考えながら読む」
【主な話題】
・ 授業構想
全てが子どもにとって意味ある活動になるようにする。子どもの学習に対する必要感、知的好奇心を掻き立てるようなアイデア。子どもが読解力を高め思考を深められるような日本語の支援。
・支援の工夫
リライト教材ではなく教科書の文を分かち書きにした教材の提示、具体物や絵カード等の活用(提示用と児童の操作用を準備)、ペアでの話し合い活動、日本語の個人差に合わせた支援(根拠をもって言えるようにするモデル文の提示、ヒントカード、ワークシート、絵本、パネルシアター等)、在籍学級との教材の共有
* 環境や体制の違いはあっても、教師の熱意とアイデアが子どもたちの学びを支えていく。それが、教科の目標を超えて子どもの学びや学ぶ姿を変えていく。
【講師の感想】
外国人の子どもが多種多様なように担当の先生方が置かれている環境も多様です。本分科会には、17年間も担当されているベテランの先生もいらっしゃれば、今年立ち上げたばかりで大変厳しい状況にあるという先生もいらっしゃいました。教育環境や体制に大きな差はありながらも、ここで一緒に学びあいができたことは意義あることだと思います。
先生方の実践はレベルが高く、中でもベテランの先生のご発表は、中身が濃くきめ細やかな支援の数々があり、講演会をお願いしたいと思うほどでした。ご紹介いただいたのは3年生の説明文「すがたをかえる大豆」です。以前はリライト教材を使っていたそうですが、それでは内容理解が十分ではないと気が付き、敢えて教科書の文を使うように変更されたそうです。そのため教科書の文章の難しさを軽減させるために、文章を分かち書きにしたり、二人組での音読や話し合い活動を取り入れたりされていました。また子どもが躓きそうな言葉について、視覚からも理解できるカードを教師の掲示用と子どもの操作用の2種類を作成して活用されていました。先生の授業構想には、学びを促すための必要感や思考的な活動、知的な好奇心などを促すための手立てがしっかりと組まれており、無駄がない。これだけの授業をしたら子どもの力は確かに高めることができるでしょう。実際その成果が子どものワークシートに表れていました。
他の先生方も、やはり具体物を使われたこと、子どもが躓きそうなところをいかにわかりやすく支援されたかを多々発表されていました。例えば、語彙の少ない子どものためにパネルシアターのような教具を利用したり、絵本作りを通して人物の気持ちを想像できるようにされたりしていました。その絵本作りでの出来事も印象的でした。吹き出しに人物の気持ちを書くという授業で、子どもが1時間一生懸考えたけれどもどうしても納得がいかなくて、授業の最後に自分が書いた部分を消してしまったそうです。それを見た先生はその時間がすごく残念に思えたとおっしゃいました。しかし、その子は次の取り出し指導時間、前時に消してしまったところに自分の納得のいく言葉を書いたのだそうです。この間は相当時間がたっているはずなのに、ぴったり合う言葉、自分が納得できる言葉を考え続けていて、そして見つけてきたのです。このエピソードを聞いて、私たちグループの参加者は感動して声を上げました。中途半端にあきらめてしまうことなく、自分の正直な気持ちを表現できる子どもがいる、また表現することを受け入れてくれる先生がいらっしゃる。このような教科指導を支える子ども理解があってこそ、子どもたちは安心して学び育っていくのではないかと思いました。
今回も私は素晴らしい先生方に出会えて、実に多くのことを学ぶことができ感謝しています。JSLカリキュラムや発達心理学の理論を基盤にしつつ、先生方の熱意とアイデアによって豊かな教育活動ができることを実感しました。また今後も、各地で活躍されている先生方の素晴らしい実践を多くの方々と共有していけることを願っています。
今沢先生
今澤グループの発表では、算数についてそれぞれ実践を持ってきていただき意見交換をしました。
① 複数学年グループ 算数/トピック型JSLカリキュラム「バザー」
算数の授業を想定していたが、トピック型JSLの授業に「なってしまった」実践です。異学年の二人の授業として、また「おまつり」を授業に取り入れた取り組みでした。子どもの興味関心に加え、学校行事をリンクさせ、日本語の学びを入れていく内容です。「受け身の学び」ではなく、「子どもが効果的に学ぶ条件の一つである、生活の中で学ぶ必要があるものの中からトピックを選定した」というとても素晴らしい実践でした。指導案の中で、日本語と教科の目標をそれぞれ明確にして、子どもたちが複数いる場合はそれぞれの目標を立てること、授業で扱う具体的な日本語表現を明記したり、主なやり取りを入れていく、理解支援、表現支援を明記していくことも大切だろうという意見が出ました。
② 小5 算数「いろいろな形の面積を求めよう」
「三角形の面積を求める」在籍学級の授業(ユニバーサルデザインの授業)報告でした。まず1時間の「めあて」の明示化が大切という意見が出ました。子どもにとって授業で何をやっているかが明確になり、教師もそこに立ち返ることができます。また面積を説明するのに使う言葉を明示された授業でした。直角三角形、長方形、半分、移動等、説明で使いたい言葉のリストを黒板の端に用意して、それを思考のヒントにさせています。「言葉を思考のヒントにさせていく」事は非常に有効な実践でした。また言葉の力が弱い子は、自分の思考を表現するのは非常に難しいです。発表の時に「表現モデル」を用意するのも有効な支援です。「何々を何々へ移動します」、「何々を半分にします」、「長方形になります」、「長方形ができます」というような、説明に使う言葉をモデル文にして用意し、それを使って発表させる実践も紹介されました。板書を写真に撮るというアイデアも出ました。前時を想起させる、担任に見せて意見・情報交換に使うというアイデアが紹介されました。
③ 小2 算数「分けた大きさをあらわそう」
注目させたい言葉や表現は色を変えて明示する、という理解支援を紹介されましたが、チョーク一本でも色一つでも理解支援ができ、それがまた大切だという意見が出ました。また「短冊化」の有効性も話されました。パターンで数字や言葉を入れ替えるなどの利用幅が広がることと。黒板を消した後に使うこともできるという工夫でした。
④ 小5 算数「平均」
公式も言え、計算もできるが、意味や概念を理解できていない子を何とかしたいと実践された授業でした。具体的な活動体験を通して概念と言葉を結び、平均について理解させていったという、具体物を通した体験的な授業が大切だということでした。
日本語指導だけでは、学習言語をはじめとする言葉の発達は、日本語指導だけではなく、在籍学級において、理解支援や表現支援を普段の授業に積極的に取り入れていって頂くというような、「言葉を意識した授業(在籍学級での授業のユニバーサル化)」が、状況を少しでも改善できるのではないか、そのためには在籍学級の先生たちに働きかけていくということが大事じゃないか、という意見が出ました。
また全体のまとめの中で、子供が学ぶことに対しては、そこに必然性や必要性を持たせないといけないね、という話が出ました。参加された先生方、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。
小川先生
【報告】
① 授業報告:中3 理科「食物連鎖」
② 授業報告:中1 日本語「スピーチをまとめる」
③ 授業見学報告:夜間中学 複数学年グループ 日本語「食育」
④ 三重県の日本語指導担当初心者向け研修用DVDの紹介
→三重県では、管理職の悉皆研修で外国人児童生徒教育について学ぶ制度あり
【主な話題】
・ 教科学習の支援方法について
視覚的情報を活用することで、言葉に頼らずかなりの内容を伝えることができる。
→資格情報が活用しにくい単元では、ルビ付き教科書・母語による教材など、いろいろな方法を考えましょう。
・ 支援者による取り出し指導と教室での学習活動の連動
今回紹介していただいたような、インタビューをして聞き取った内容をまとめる活動は、学年の取り組みとしてのキャリア教育(職業調べ、職場体験活動)などと連動させて取り組むと有効。
→支援者は学校・学年の取り組み、教科の単元の進行について、学校側から情報を得ることがとても重要です。
・ 栄養などのテーマは、教科と直接的に結びつかなくても、中学校段階で知識として学んでおくべきことで、日本語で教材として扱うとよい。
→中学生の女子って、知識なしにむやみにダイエットをします。母語で情報が入りにくくなっている分、生きていく上で知っておいてほしい情報を伝えるような授業を日本語指導の中で考えたいですね。
・ リライト教材について
作り方についての質問、作成した教材の共有について情報交換しました。
→日本中の先生方がリライト教材を作っています。共有できるといいですね。著作権の壁を何とか乗り越えられるといいと思っています。
【講師の感想とメッセージ】
中3理科の授業報告がとても有意義でした。難しい内容ですが、理科の先生にもアドバイスをもらい、写真をたくさん用意して、それを使ってうまく理解させることができていました。今回は、作った写真を持参してくださいました。毎回の授業のことを考えると、特別に写真を準備するのは本当に大変です。教科書の写真をうまく活用する方法や、JSL教科学習は日本語の力に差があっても同学年の複数の生徒で学びあうとさらに有益であることなどを話し合いました。まずは、チャレンジしてみること。そこから、次の工夫が生まれてくると思います。第3回目は、実践の交流がとても有効だったと思います。
大菅先生
【報告】
① 小5 日本語/社会科「都道府県の名称と位置」
② 小5 日本語「上・下・右・左・まんなか」
【主な話題】
・ 子どものやる気を引き出すには
・ 日本語指導の予定と教室からの要望
教室でクラスの友達と同じことができるのは、子どもにとってとても大切なこと。日本語指導者がやりたいことより「子どもが活躍するために」という視点が必要。
【講師の感想】
第一グループを担当しています、京都市の大菅です。第一グループは、初期指導の子どもさん、来日してまだ3か月ぐらいのお子さんを持っておられる方ばかりの3人のグループでした。3人のうちお二方がこの4月から国際教室を担当されている先生、そしてもう一方は外からの日本語支援の支援員さんで、1週間に1回だけ学校で取り出し授業をされておられます。実践報告としては、お一方からは、上・中・下をどんな風な教材を使ってどんな風な楽しい授業をしたかというお話、もう一方からは都道府県名を覚える指導案の提案がありました。都道府県名は、興味のある子どもはどんどん覚えますが、興味のない子どもにどういう風に覚えさせていったらいいのかということが話題にあがりました。
今日教材を持ってきていただいたということもあり、分科会の中心は、いかに子どもの心をつかむか、興味をひくか、やる気にさせるか、ちょっと頑張ってみようと思わせる工夫をするか、どんな教材を用意したらいいのか、どんな風な導引をしたらいいのか、どういう風に子どもが勉強したことを使える場を設定していくのかといった話でした。もう一つ悩みとして、初期段階では、学校生活のいろいろなこと、例えばもう少ししたら学芸会がありますが、学芸会でこの笛をどうしてもみんなと一緒に吹きたいので、個別の指導の場でお願いできませんかというようなことや、こちらが日本語の指導で今日はこれをやろうと思っているけれども、教室からは違う要望が出ることがとても多いという話題になりました。それについてはやはり、子どもがクラスでみんなと同じことができたという時間がとても大切になるので、JSLのトピック型に繋がっていくかとも思いますが、指導者の方がそれを楽しんで、いかに日本語の授業として頼まれたことを取り上げていくのかを工夫をしていくと、こちらの気持ちとしても、また今日やろうとしていたことできなかったということではなく、子どもが活躍するためにやっていくというような気持ちでやっていけるのではないかと話合いました。
私は子どもたちに直接関わらなくなってから、5年が経ちます。今日、午前に実践報告を聞き、午後も、毎日そういう子どもたちと向き合って悩み試行されるみなさんの姿を拝見して、当時は子どもたちにどう接したらいいか毎日悩んでいて、大変だと思うこともすごく多かったのですが、今実際に子どもたちに教えられるということが、すごくすばらしいことなのだなと今日改めて感じました。日々指導の中で困ることや悩むことが数多くあると思いますが、直接子どもたちに関われることはとても素晴らしい機会でありますし、今日も最後にグループでもメールのアドレスの交換をなさっていたのですが、こういう場で会われた方にいろいろな場面で相談したり、気軽に聞ける仲間をたくさん作ったりしていただけたらなと思います。一分科会の報告、簡単ですが以上とさせていただきます。
全体会
授業実践報告「JSL研修会から教室へ」
報 告:川尻 年輝(小谷村立 小谷小学校)
市川 昭彦(大泉町立 北小学校)