イベント

第9回 国際教育センターフォーラム

多文化保育における子どもの発達の可能性を考える

-より柔軟な支援を目指して-

 近年,外国人の定住化傾向や国際結婚の増加にともない,日本においても文化的多様性に配慮した保育のニーズが高まっています。日常生活の中で意識する機会はありませんが,私たちの習慣,常識,コミュニケーションの仕方などの多くは,日本文化に特有なものです。私たちが考える良い保育や,適切な子育てのイメージも例外ではありません。外国につながる子どもや保護者との関わりの中で,時として違和感や誤解,摩擦が生じてしまうのも,互いの持つこうした「当たり前」の違いに起因することが多いようです。

 日本の保育文化における「当たり前」を見直し,外国につながる子どもを含めた保育のあり方を模索する時期にきています。そのためには,日本文化の枠にしばられない保育実践に目を向けることも有効でしょう。そこで本フォーラムではまず,異なる背景をもつ子どもや大人が対話を通してどのような学びを生み出していくのかに関する基本的な理解を深めます。そのうえで,主に日本語を用いた保育が行われている中華系の園での調査から見えてきた子どもの発達や学びについて,特に,多文化共生を志向する子ども同士のやり取りの特徴や,ことば・数量の認識,多文化保育特有の保育課題や支援のあり方に焦点をあてて報告します。それをもとに日本の保育を捉えなおし,文化的多様性に配慮した柔軟な発達への支援のあり方について,ご来場の皆さまと一緒に探りたいと考えています。

■日時: 2016年3月5日(土)13:10~16:30

■会場: 中野サンプラザ7F研修室10

■ 申し込み・お問い合わせ先: 東京学芸大学国際教育センター 教務室または、事務室まで

Tel.042-329-7717,7727 Fax 042-329-7722

メール c-event(@)u-gakugei.ac.jp  ※(@)を@に置き換えてください。

定員95名 (申し込み受付順)/申し込み締切:201632()

定員に達しましたので、お申し込みは締め切らせて頂きました。

たくさんのお申込みありがとうございました。


<プログラム>

13:10 開会

13:10~13:20 開会の辞 池田榮一(東京学芸大学国際教育センター長)

13:20~13:30 趣旨説明 榊原知美(東京学芸大学国際教育センター・准教授)

13:30~14:20 「子どもが「異」を排除するとき,しないとき」

   佐伯胖(田園調布学園大学・教授,東京大学,青山学院大学・名誉教授)

                ― 休憩―

14:30~14:55 「多文化保育における幼児の自発的な共生方略」

  榊原知美(東京学芸大学国際教育センター・准教授)

14:55~15:20 「多文化保育における幼児のかかわりとことば」」

  山名裕子(秋田大学・准教授)

15:20~15:45 「多文化保育特有の保育課題と保育者の支援のあり方」

  和田美香(聖心女子専門学校・講師)

15:45~16:00 コメンテーター 白川佳子(共立女子大学・教授)

16:00~16:30 討論

16:30 閉会


国際交流フォーラムポスター.pdf


講演概要

①子どもが「異」を排除するとき、しないとき

 田園調布学園大学 佐伯 胖

【概要】

 幼稚園などでの子どもの遊びは、多くの場合、一緒に遊ぶ仲間が固定しているグループ(お仲間)ができ、それまで仲間に入っていなかった子どもが「入れて」といっても、「ダメよ」と言ったり、「△△をもっていない人はダメ」というような、ほとんど意味のない条件をつきつけて排除したりする。それは、子どもたちが特定の集団に所属し、集団外を排除するとともにその集団のメンバー同士で恩恵を分かち合うこと(「内集団ひいき」)で、いわば「安心社会」を構成しているのである。ところが、そのようなグループもしだいに争いが生まれ、別々の遊びを探求、別のパートナーと遊んだりするように変わっていく(「信頼社会」への移行)。講演では、そのような移行のプロセスを、ヴァスデヴィ・レディの「二人称的アプローチ」の観点から考察する。つまり、子どもの自己意識の発達が、「三人称的なまなざし」のなかで自己を三人称化する(自分は「どの集団のメンバーか」でアイデンティティを保つ)ことから、自らを二人称化する(固有の意図、好み、動機をもつ、行為主体であることを受け入れる)ことにより、他者を二人称的に見て、その未知性を怖れるのではなく、自己の新たな可能性のうちに他者を受け入れていくのだとする。このことは、私たちが異文化を理解していく過程にも共通する見方を提供しているのではないだろうか。

②多文化保育における幼児の自発的な共生方略

 東京学芸大学国際教育センター 榊原知美

【概要】

 異なる文化的背景をもつ子ども,特に,共通の言語をもたない子どもが一緒に園生活を送るとき,子ども同士のやりとりにはどのような特徴がみられるのだろうか。

子どもは互いのことばを理解できなくても仲良く遊ぶことも多く,また日常生活に必要な第二言語での会話力についても,大人からみると驚くほどの速さで身につけていく。しかし,だからと言って,子どもがコミュニケーション上の配慮や工夫を全く行っていないわけではない。実際に異なる文化的背景をもつ子ども同士のやりとりを注意深くみてみると,子どもは子どもなりに,日常生活の中で様々な方略を駆使して異文化との共生を模索していることがわかる。

本発表では,多文化状況の保育における,そのような子どもの自発的な共生の試みと,それを促す保育者の援助のあり方について,日本語での保育を行っている中華系の保育所における保育活動の自然観察と保育者へのインタビューデータをもとに考えたい。より具体的には,日本文化への適応が前提とならない中華系の園において,来日直後の中国語児がどのように保育活動に参加していくのか,日本語児・バイリンガル児とのやりとりはどのようなものかに注目して検討する。さらに,保育者へのインタビューを通してみえてきた,子ども同士の自発的な共生行動を促す保育者の援助のあり方についても考察する。

多文化保育おける幼児のかかわりとことば

 秋田大学 山名裕子

【概要】

 私たちは生活の中で,知らず知らずのうちに様々なことを学んでいる。ことばもその一つである。岡本夏木(1995)は,具体的な文脈を手がかりに生活の中での相互的なやりとりを通して獲得していくことばを「一次的ことば」,小学校以降に,読むこと,書くこと,みんなの前で発表することなどを通して獲得することばを「二次的ことば」と定義し,「二次的ことば」の獲得は「一次的ことば」が基盤となることを指摘している。つまり,ことばは,話し方や文法,抽象的な概念を明示的に教えること以上に,生活の中でのかかわり,当然,何気ないおしゃべりも含まれるが,を通して具体的なイメージを基に獲得される。特に幼児期は生活経験が異なる子どもたちが共に生活をすることで,共通のことばが獲得されていく。

生活経験が異なるということは,子ども一人ひとりがもっている具体的なイメージも異なる。特に文化的背景が異なる子どもたちの場合,具体的なイメージも多様であるだろうし,もしかすると日本語を第一言語とする子どもとは違う側面もあるかもしれない。そこで文化的背景が異なる子どもたちの生活の観察場面から,かかわりの中でことばを共有することの難しさや,ことばだけではないかかわりの重要性を考えていく。そして,多文化保育だからこそ見えてくる課題から,「当たり前」を見直すとともに,幼児期特有の発達・保育についても議論したい。

多文化保育特有の保育課題と保育者の支援のあり方

 聖心女子専門学校 和田美香

【概要】

本研究では、多文化保育における保育課題や保育者の援助の在り方について、中華系認可保育所における職員会議と保育士へのインタビューデータをもとに検討する。先行研究では、保育者が抱える困難と問題点については、「言葉」と「食事」の問題が、上位に挙げられている(石川他・2007)(植田・1996)。

本研究では、このうち特に「言葉の問題」に注目し、保育者がこの問題にどう対処しているのかを分析した。その結果、担当する子どもの年齢や保育者自身の文化的背景によって、保育者の「支援のポイント」や問題に対する考え方に差異が見られることが明らかになった。    

具体的には、4,5歳児の担任が子どもとの関わりの中で「通訳」の必要性を強く感じていることに対し、3歳児の担任は「通訳」を、子どもとの関係よりもむしろ「保護者との会話」に求めていた。子どもとの関係では、言葉での関わりよりも「スキンシップ」や「安心感」に支援の重点が置かれていた。これは乳児クラスで強調される「愛着関係」の構築を、この年齢で改めて行っているのではないかと考える。つまりそれは、言葉での関わり以前に、身近な特定の大人が、応答的、かつ積極的に働きかける配慮が必要であり、そこから「情緒的な絆」の形成をしていくことが保育の中心になるということである。このようなことに配慮する保育内容や保育形態などを考えると、多文化保育では、これまでの保育観にとらわれない、保育のあり方、考え方が必要とされていることが示唆された。

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